鉄鋼の溶接技術者であった私の親父は私が小学校3年生のときに
大手鉄鋼会社を退社し、親族で会社を立ち上げた。
「技術者が若いものに扱われたら終わりや。」そんなことをポツリと吐く親父の言葉の裏に
変わりゆく経済と親父なりの腕への自信が隠れていて
その言葉は人の悪口を言わない親父から聞いた唯一の愚痴だった。
その後、私たち家族は決して裕福とは言えない暮らしを経験した。
親父の決断はひょっとしたら後悔したときもあったのではないかと考えていたが
今は自分の道を進んだことにきっと満足したのではないかと思える。
贅沢な暮しをすることよりも、やりたい仕事をし続けることに男の浪漫があるように思えるようになったからだ。
そんな暮らしの中、ねだる私の要望を聞いて、親父は新品の学習机を買ってくれた。
今思えばきっと大変な買い物だったと思うが、子供の私は自分の城ができたような衝動に駆られ、
嬉しくて仕方なかったことを想い出す・・・
小学校4年生になった長女の春は学習机を持っていない。
リビングで宿題をやりながら、「机を早く買って。」が口癖になっている。
そして、最近はこっそりと大工の義父に電話で机の相談をしている。
私も春のテスト結果を学習机が無いからという理由にされるのが嫌なのでそろそろ準備をしようかと思う。
すばらしい学習机は高くて買えないけど、無印良品のコストパフォーマンスの高い机を用い、
パパが図面を引いて、おじいちゃんに手伝ってもらって本棚を合体させたオリジナルの学習机を作ろう。
そして春に言ってやる。
学習机ができたんやから、成績上がってきたやろう!
どうやっ!春!
どこにでもある普通の家族の親父と娘の物語
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